慶塚の番頭さん

昨夜は粗食の会で、青豆入りの湯葉、小松菜、人参の煮合わせを輪島塗りのお椀に盛りつけました。
小さい頃、遠く石川県の輪島より半年に一度、慶塚という漆器屋の番頭さんが祖母を訪ねてやって来ました。
黒の大きなボストンバッグからお椀やお盆、重箱、銘々皿等が、まるで手品師のように取り出され、その品のなりたちを話してくれました。
黒地に金の蒔絵が入ったお椀を一つ一つ丁寧に扱う様子は、いかに手間隙かけて作られてきたのか、子供心にも良くわかりました。
祖母は確かな目で値踏みしながら、その手仕事を褒め、番頭さんに、ねぎらいの言葉をかけました。
私は漆器の美しさと二人のやり取りを楽しく眺めていました。
祖母は有馬の旅館の女将さん達に電話をかけ、漆器を見てくれるように頼みます。
番頭さんが、その横で、電話に向かって何度も丁寧に頭を下げているのも、可笑しく、また祖母が一層大きく見えました。注文を受けると、一つ一つ布に包んで、いっぱい並べた漆器をまたカバンに詰めてゆきます。
あんなにたくさんあったものが、鞄一つによく入るものだと不思議でたまりませんでした。
そして、もう帰ってしまうのかと、次の来る日が待ち遠しい思いでいっぱいになります。
その後、慶塚も有名になり、番頭さんが注文聞きに来ていたのは、夢物語になってしまいました。